水木しげると妖怪ぬり壁――出会いが生んだ“ゲゲゲ”の世界

豆知識
higejii(ひげ爺)
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あなたは「ぬり壁」と聞いて、どんな姿を思い浮かべますか?分厚い壁のような体で道をふさぐ、どこかユーモラスで、不思議と親しみやすい顔つき――「ゲゲゲの鬼太郎」に登場する有名妖怪ですが、その誕生には、水木しげるという一人の漫画家の、数奇な体験が深く関わっているのです。

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水木しげると妖怪との「はじめての時間」

水木しげる先生、みなさんもご存知ですよね。『ゲゲゲの鬼太郎』をはじめ、日本の妖怪たちを鮮やかに蘇らせた立役者。その出発点には、幼少期に「のんのんばあ」から聞かされた不思議な話や、身近な不可思議体験がたくさんありました。

のんのんばあとは、近所に住んでいたおばあさん。「のんのん」というのは、仏壇に手を合わせて拝むしぐさから呼ばれていた愛称。彼女の語る昔話や妖怪譚は、幼き水木少年の心に、確かな“妖怪の実在感”を刻んだのです。

戦場で出会った「見えない壁」――ぬり壁のルーツ

時は流れて、第二次世界大戦。水木しげるは、南方ラバウルの戦地に従軍していました。命の危険が日常となる苛烈な環境の中、ある日――“それ”は突然、やってきたのです。

「森の中を必死に逃げ惑っていた時、前方にコールタールのような、黒い、ぶ厚い壁が現れて、道が完全にふさがれてしまったのです。それは右にも左にも続き、どうやっても突破できず、身動きが取れなくなった」

水木しげるは復員後、この不思議な体験が“ぬり壁”ではないかと気づきます。当時は「ぬり壁」の存在も知らず、名前すら分からなかった。しかし、戦地でのその体験は、後に『ゲゲゲの鬼太郎』を描く際のヒントとなりました。

不思議な壁は、しばらくすると消え、水木は九死に一生を得ました。この現象は“ぬり壁”の伝承そのものだった、と語っています。

日本各地に伝わる「ぬり壁」

ぬり壁は、主に九州や西日本各地に伝わる妖怪。夜道や山中で、突然“見えない壁”のような力に進路を阻まれる…という伝承が多いのです。横に逃げても壁はどこまでも続き、抜け出せない。棒で下方を払うと消えると言われているのも特徴ですね。

こうした「ぬり壁」の伝承は、民俗学者・柳田國男や、江戸期の鳥山石燕『画図百鬼夜行』にも見られます。水木しげるは膨大な資料を蒐集する中で、こうした先人たちの多くの妖怪や書物とも出会い、「ぬり壁」を現代に生きる妖怪としたのです。

「ゲゲゲの鬼太郎」――ぬり壁、全国区の妖怪へ

水木しげるの手で漫画『ゲゲゲの鬼太郎』に登場したことで、“ぬり壁”は一躍有名妖怪になりました。元々は無名に近かった「ぬり壁」も、今や子どもから大人まで知る存在になりました。

鬼太郎の仲間、頼れる壁として描かれる“ぬり壁”は、実際に水木しげるの命を救った存在の投影でもあるのです。

妖怪はいまも、私たちの生活の中に

水木しげるは、妖怪を「昔の人の残した遺産」と呼びました。彼が描いたぬり壁をはじめとする妖怪たちは、決して“遠い過去の物語”ではありません。今も、ふとした瞬間に私たちの前に現れることがあるのです。

たとえば、「なんだか今日は妙にうまくいかない」「目に見えない何かが、進みを妨げている気がする」。そんな夜、もしかしたら、ぬり壁があなたを見守っているのかもしれません。

境港や各地の「水木しげるロード」では、ぬり壁に出会えるスポットや、妖怪AR体験なども随所に用意されていますので、家族や友人と一緒に“実際に妖怪の息づかい”を感じてみてはいかがでしょうか。


あなたの周りには、どんな“目に見えない壁”がありますか?そして、それを越えるためのヒントが、案外「ぬり壁」や妖怪たちの物語に隠されているかもしれない――。水木しげるが見つめた世界の向こう側、あなたもぜひのぞいてみてください。

そして、もし道に迷ったら、「ぬり壁」の伝承通り、下の方を探ってみましょう。きっと道が開けるはず――。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。妖怪たちは、いつもあなたのすぐそばに。

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