公衆トイレで「まだ和式?」と思うあなたへ

ある日、駅でトイレに入ったとき、あなたもこう思ったことはありませんか?
「え、まだ和式トイレがあるの?」と。
令和のいま、家庭のトイレはほとんどが洋式。温水便座、自動洗浄、脱臭機能…まさに快適の極みです。
それでも、公園や駅、高速道路のパーキングなどで、ふいに和式が目に入ると、少し驚きますよね。
けれど――そこには「単なる古いから残っている」というだけではない、深い理由があるのです。
和式トイレが生まれた理由と日本人の生活文化
まず、なぜ和式が日本で主流だったのか。
それは、日本人の生活スタイル――「床に座る文化」と関係しています。
畳の上に正座、ちゃぶ台に座って食事、靴を脱いで生活空間に入る。昔の日本では、地面に近い姿勢が日常的だったんです。
だから“しゃがむスタイル”の和式トイレはごく自然な形として受け入れられました。
また、和式は「衛生的」とも言われました。肌が便座に触れないため、直接的な接触が少なく、感染リスクを避けるという利点があったからです。
昭和の時代、公衆トイレは今ほど清潔ではなかったことを考えると、この点は非常に重要でした。
つまり、和式トイレは日本の暮らしと衛生観を反映した“合理的な形”だったのです。
洋式トイレの普及と時代の流れ
一方で、日本のトイレ事情を劇的に変えたのが「洋式トイレ」の登場です。
戦後、アメリカ文化が流入し、座って使う洋式が少しずつ広まりました。
特に1970年代以降、住宅建設の近代化とともに、家庭用トイレが洋式中心になっていきます。
90年代には温水洗浄便座(いわゆるウォシュレット)が登場。清潔、快適、便利と三拍子そろい、今や日本の誇りともいえる技術になりました。
ではなぜ、そんな今の時代に「和式」を残しているのか?
ここからが、意外に知られていない“深い理由”の部分です。
理由①:公衆トイレは「メンテナンス性」で考えられている
和式トイレの最大のメリットは、掃除のしやすさと壊れにくさにあります。
洋式トイレは構造が複雑で、便座や洗浄機能部分に汚れや菌が溜まりやすい。しかも、壊れれば修理費用が高額になります。
一方、和式は構造がシンプル。掃除の際の水洗いも簡単で、 vandalism(いたずらや破壊)にも強い。
特に、自治体の公園や古い駅などでは維持管理のコストが限られているため、耐久性のある和式を残しているケースが多いんです。
「古い = 不便」ではなく、「維持しやすい = 公共向き」という判断が働いているわけですね。
理由②:多様な利用者への配慮
意外かもしれませんが、今でも和式トイレを好む人たちが一定数いるのです。
特に高齢世代では「和式が一番落ち着く」「衛生的だから」と考える人が多いのだとか。
また、外国人観光客の中には「日本独自のトイレ文化」として体験を楽しむ人もいます。
訪日外国人向けSNSには、「はじめて和式を使ってみた!」という投稿も多く見られます。
つまり、完全に洋式化してしまうと、文化としての多様性や選択肢を奪ってしまうリスクがある。
それを避けるために、あえて一部のトイレでは“和式をあえて残す”選択がされているのです。
理由③:防災・緊急時にも強い構造
ここが、あまり知られていないけれど非常に重要なポイント。
地震や災害時、停電や断水が起こると、洋式トイレの機能(特に洗浄部分)は停止してしまうことがあります。
ところが和式トイレは、水をバケツで流せばすぐ使える構造。壊れても修理が簡単です。
一部の自治体では、「災害対応型トイレ」として和式の便器を意図的に残している例もあります。
つまり、和式トイレは“災害に強いトイレ”でもあるのです。
理由④:衛生観念の違い
トイレに直接座らない――これも日本人特有の衛生意識から来ています。
特に公衆トイレでは、便座に誰が座ったかわからない不安がありますよね。
「直接触れないから安心」という心理的な清潔感を求めて、和式が好まれる面もあります。
また、しゃがむことで「排泄姿勢」が理想的になり、腸の働きを助けるという説もあります。
欧米の一部でも、“しゃがみ姿勢のトイレ(squat toilet)”が健康的だと見直されてきています。
理由⑤:コストと予算の問題
そして現実的な問題として、和式から洋式への改修は驚くほど費用がかかるのです。
一般的な和式から洋式への変更には、
- 便器交換費用
- 温水便座の導入
- 給排水・電気工事
- 床の傾斜調整
などが必要で、1基あたり20〜30万円以上がかかる場合もあります。
自治体の公衆トイレには数十基設置されていることを考えると、全改修は容易ではありません。
つまり、費用対効果の面から「まだ使える和式をそのまま使う」方が合理的という判断があるのです。
今後の流れ:和式トイレは消えていくのか?
ここまで読むと、「じゃあ、和式はこのまま残るの?」と思うかもしれません。
答えは、「減っていくけれど、完全には消えない」です。
国土交通省や自治体の方針でも、「高齢者や外国人に配慮した洋式化」が進められています。
2020年の東京五輪を境に、多くの駅や公共施設のトイレが洋式化されました。
ただし、防災やコスト対策、清掃性などの理由から、一定数の和式が残される方向です。
つまり、これからは“用途に応じて使い分ける”時代になります。
まとめ:和式トイレが語る、日本人の心の原風景
あらためて考えると、和式トイレは単なる「古いトイレ」ではありません。
そこには、
- 日本人の衛生観念
- 生活文化
- 自然災害への備え
- 公共空間の維持の知恵
といった、“日本の暮らしの本質”が凝縮されています。
もし次に公園や駅で和式トイレを見かけたら、
「なんでまだあるの?」ではなく、
「よくここまで残ってくれたな」と、少し感慨を持ってみてください。
和式トイレは、時代とともに消えかけながらも、私たちの生活を見守り続けてきた“静かな文化遺産”なのです。


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