認知症でも「要介護1」では特養に入れない現実

あなたの大切なご家族が認知症と診断され、「要介護1」の認定を受けた――。
「そろそろ施設を考えないと」と思っても、いざ市区町村に相談すると、
「すみません、要介護1では特別養護老人ホーム(特養)には入れません」と言われる。
こうした現実に直面して、
「どうして?」と思った方は少なくありません。
介護が必要になっているのに入れない。
家族の負担がどんどん重くなる――。
いま、日本中で同じ悩みを抱えている人が増えています。
特養の入所条件:要介護3以上が原則
特別養護老人ホームは、介護保険制度の中でも公的負担が大きく、費用が安定している施設です。
介護人材が常駐し、食事・入浴・排泄といった日常生活全般の支援を受けられるため、
「できることなら入れたい」と希望する方が非常に多い。
しかし、2015年の介護保険制度改正で、
原則「要介護3以上」からしか入所できないルールが定められました。
- 要支援1・2:基本的に「自立支援」が目的の在宅サービス対象
- 要介護1・2:「軽度」とみなされ、特養よりもデイサービスやショートステイの利用を推奨
- 要介護3~5:特養入所の優先対象
つまり、「認知症」と診断されても、身体介助がそれほど必要ない場合は、
「まだ軽度」と判断されてしまい、入所が認められないのです。
「軽度」でも現実は過酷──在宅介護に押し戻される家族
介護現場の実態を知ると、「軽度」という言葉がどれほど現実離れしているかがよくわかります。
たとえば、要介護1の認知症高齢者の場合:
- 夜間の徘徊、外出迷子
- 食事の拒否や過食
- 服薬管理ができない
- トイレの場所を間違える
- 感情が不安定になり、暴言・拒否が生じる
……といった 「身体介助以外の認知機能の問題」 が深刻です。
ところが介護認定調査では、主に「食事」「移動」「排泄」「入浴」など身体動作の能力に重点が置かれるため、
認知症の“見えにくい介護負担”がスコアに反映されづらいのです。
結果として、本人は「軽度」でも、
家族は夜も眠れず、心身ともに疲弊するケースが多数発生しています。
「認知症+要介護1」の家庭が直面する主な課題
介護サービスの限界
要介護1では、利用できる介護保険サービスの上限額が月額約5万〜7万円前後。
デイサービスを週2〜3回利用すればすぐに限度額を超えてしまい、
「もっと支援が必要なのに、これ以上使えない」という声が多く上がっています。
介護離職の増加
昼夜問わない介護に追われ、
仕事を続けられなくなる家族が後を絶ちません。
特に働き盛りの40〜60代女性が、離職や退職を余儀なくされるパターンが増えています。
心理的な孤立
在宅介護が長期化すると、介護者が「社会から切り離された」感覚に陥ります。
相談相手もおらず、ストレスが限界に達して虐待・共倒れといった悲劇にもつながる恐れがあります。
特例での入所は可能なのか?
実は、「要介護1・2」でも特例的に入所が認められるケースがあります。
以下のような条件を満たす場合です。
- 家族がいない、または同居していても介護困難な状況
- 認知症が進行して日常生活が著しく困難
- 自宅環境が劣悪で、在宅介護を続けることが危険と判断された場合
これらに該当すると、市町村の審査会で「やむを得ない」と判断され、入所優先となる場合があります。
とはいえ、枠は非常に限られています。
自治体によって判断基準も異なり、申請したからといって必ず通るわけではないのが現実です。
介護認定の見直しを求める声が強まる
全国の介護家族会や支援団体からは、
「認知症の特性を反映した介護認定基準にしてほしい」という声が高まっています。
身体機能中心だった評価に、
「認知・行動障害」や「家族介護の負担度」を加味することで、より実態に即した認定ができるはずです。
例えば、
- 認知症による夜間不眠や徘徊
- 薬の誤飲リスク
- 感情の起伏による生活の不安定さ
これらも明確に評価項目に含めることで、
「介護が軽い」と誤認されるリスクを減らせます。
自治体や家族にできる対策
ケアマネジャーに「現状の詳細」を伝える
介護認定調査では、表面的な生活動作だけでなく、
「介護者の負担」「夜間の不安」「精神的ストレス」も具体的に報告してもらいましょう。
包括支援センターへの相談
地域包括支援センターは、
「特養だけでなく、グループホームや小規模多機能型居宅介護」などの代替サービスを紹介してくれます。
家族のレスパイト(休息)確保
ショートステイやデイサービスを活用し、定期的に家族が休む時間を確保することが不可欠です。
「少し休むこと」は「諦めること」ではなく、「長く続けるための戦略」です。
グループホームという選択肢
もし特養が難しい場合、
認知症対応型共同生活介護(グループホーム) は現実的な選択肢です。
要支援2以上から入居可能であり、
少人数の家庭的な環境の中で、介護士が24時間サポートしてくれます。
料金は特養よりやや高いものの、
認知症ケアに特化した環境で穏やかに生活できる点が大きな強みです。
終わりになぜ「制度のはざま」に苦しむのか
介護制度は「公平・効率」を目指して作られましたが、
結果として「認知症の軽中度期」に苦しむ家庭を支えきれていません。
介護が必要なのに、制度が「まだ軽い」と判断すれば支援の枠から外れる。
この構造が、介護地獄の入口になってしまっているのです。
少しずつでも、声をあげていこう
もしあなたがいま、認知症の家族を抱えて疲れているなら、
それはあなたの努力が足りないからではありません。
制度の限界が、あなたを孤立させているのです。
市町村の窓口や地域包括支援センター、介護家族会など、
一人で抱え込まず、誰かにつながるところから始めてください。
そして社会全体として、
「認知症でも軽度扱いにしない」
「家族が倒れる前に支援する」
――そんな仕組みへと変えていく必要があります。
終章:介護が「家庭の問題」から「社会の責任」へ
認知症は誰にでも起こりうる病であり、
家族の愛情だけでは支えきれない現実があります。
「要介護1」でも見えてくるその深い負担を、
一人でも多くの人に知ってもらうことが、変化への第一歩です。
日本の介護が「家族の自己犠牲」ではなく、
「共に支え合う社会」へと進むために――。
私たち一人ひとりの理解と声が、これからの未来を変えていくのです。

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