
みなさんの身近に、「最近少し様子が変わったかな?」と思うご家族はいませんか?年齢を重ねると多少の物忘れは自然なことですが、その中に「認知症の兆候」が隠れているかもしれません。実際、認知症は早期に気づくことができれば、治療や生活の工夫で進行を遅らせることも可能です。
この記事では、認知症の兆候をまとめてご紹介します。家族や大切な人に変化が現れた時に「これはただの加齢による物忘れなのか、それとも認知症の初期段階なのか?」を見極めるポイントを、一緒に確認していきましょう。
物忘れと認知症の違い
まず多くの人が最初に気づくのが「物忘れ」です。
- 加齢による物忘れ:体験の一部を忘れる(例:昨日食べたおかずの名前を思い出せない)
- 認知症の物忘れ:体験そのものを忘れる(例:食事をしたこと自体を覚えていない)
この違いが一つの重要なサインです。また、何度も同じことを繰り返し尋ねたり、約束自体を忘れてしまったりする場合には注意が必要です。
初期に見られる認知症の兆候
認知症の兆候は多岐にわたります。ここではよく見られるサインを整理してみましょう。
- 時間や場所がわからなくなる
「今が夕方なのか朝なのか混乱する」「自宅への帰り道がわからなくなる」ことがあります。 - 判断力や理解力の低下
買い物でお金の計算に戸惑う、簡単な家事の手順を忘れるなど。 - 言葉の問題
複雑な言葉が出てこない、知っているはずの単語を忘れる、会話が途中で止まる。 - 物の置き忘れの頻発
鍵や財布を何度も探すのは日常的ですが、冷蔵庫にリモコンを入れるなど「日常では考えにくい場所」に置くケースが増えるのが特徴です。 - 気分や性格の変化
以前より怒りっぽくなったり、逆に無気力になることがあります。 - 社会的なつながりの減少
人と会うのを避ける、趣味に興味を失うなど、人間関係や活動の幅が急に狭くなる場合も要注意です。
家族が見逃しがちな小さなサイン
実際に多くのご家族が「何かおかしい…」と感じるのは、日常生活の中の些細な変化です。
- 食事の味付けが極端に変わる
- 同じ洋服ばかり着るようになる
- 電話での会話がかみ合わない
- 財布から紙幣を数えるのに時間がかかる
こうした小さな違和感は、本人も気づかないことが多いため、周囲の観察がとても重要です。
軽度認知障害(MCI)という段階
実は、認知症の前段階として「軽度認知障害(MCI)」と呼ばれる状態があります。MCIの段階であれば、生活習慣の改善や脳のリハビリで認知症を発症しない可能性も高いとされています。
- 忘れっぽさは感じるが、まだ日常生活は大きく支障がない
- 本人にも「最近物覚えが悪くなった」と自覚がある
- 家族がサポートすれば社会生活を続けられる
このような様子が見られる場合、医療機関でのチェックを検討するのがおすすめです。
早期発見のメリット
「認知症は気づいたら手遅れ」というイメージがあるかもしれませんが、実際には早めに気づくことで得られるメリットが多くあります。
- 適切な薬物療法やリハビリが受けられる
- 生活習慣を整えて進行を遅らせられる可能性がある
- 財産管理や介護の準備を余裕をもって始められる
- ご本人の意思を尊重した今後の生活設計が可能になる
特に「将来どう暮らしていくか」を本人と家族が一緒に話し合えるのは、早期に気づいた人だけの大きなメリットです。
認知症の兆候をチェックする方法
家庭でできる簡単なチェック方法も有効です。例えば以下のような点を観察してみましょう。
- 今日の日付や曜日がすぐに答えられるか
- 簡単な計算(100から7を引いていく作業など)ができるか
- 5つの言葉を言って数分後に思い出せるか
- いつも通りの調味料や道具を正しく扱えるか
もし複数の項目で「あれ?」と感じる場合、専門医に相談すると安心です。
家族ができるサポート
兆候が見られた時、家族はどのように対応すればよいのでしょうか。
- 否定せずに受け止めること:「忘れてるでしょ!」と責めるのではなく、優しく声をかける。
- 生活の工夫を取り入れること:カレンダーやメモを活用、よく使う物の置き場所を決める。
- 医療につなげること:かかりつけ医に相談し、専門医への紹介を受ける。
- 自分自身の負担を軽くすること:介護サービスや地域の支援制度を活用する。
認知症の兆候に気づくことは、家族だけで抱え込むサインではなく、専門家や支援の輪につなげるスタート地点と考えると良いでしょう。
小さな違和感を見逃さないことが大切
認知症の兆候は、意外と「ちょっとした日常の変化」として現れます。その違和感に気づくのは、最も近くにいるご家族や身近な人だからこそ。
「最近ちょっと気になるけど、まあ大丈夫かな」と見過ごすのではなく、小さなサインこそが早期発見のチャンスです。
大切な人を守るために、今日から少しだけ注意深く観察し、必要に応じて医療機関に相談すること。それが、本人も家族も安心して暮らすための第一歩となります。
介護保険の申請方法

認知症の兆候に気づいたら、医療機関への受診とあわせて検討しておきたいのが「介護保険の制度」です。介護サービスを利用するためには、まず「要介護認定」を受ける必要があります。
介護保険の申請手順
- 申請先を確認
- 市区町村の介護保険課や地域包括支援センターに申請します。
- 本人や家族のほか、ケアマネジャー、福祉施設の職員など代理での申請も可能です。
- 必要書類の準備
- 介護保険被保険者証
- 認定申請書(窓口で入手可能)
- 医師による意見書(診断を受けた病院・クリニックが作成)
- 訪問調査
- 市区町村の職員や委託調査員が自宅を訪問し、生活の様子や心身の状態を確認します。
- 主治医意見書の提出
- 認知症が疑われる場合、必ず医師の意見書が必要になります。かかりつけ医がいない場合は紹介も可能です。
- 審査・判定
- 訪問調査の結果と医師の意見書をもとに審査会で「要支援」もしくは「要介護」の区分が決定されます。
- 結果通知
- 概ね申請から30日以内に認定結果が通知されます。
介護サービス利用の流れ
認定結果が出たら、実際のサービス利用に進みます。
- 要支援と判定された場合:地域包括支援センターが中心となり、生活支援サービスや予防プランを提案します。
- 要介護と判定された場合:ケアマネジャーがケアプランを作成し、デイサービス、訪問介護、福祉用具のレンタルなどが利用可能に。
この段階で初めて介護サービスの費用が保険でカバーされるようになります。
地域の相談窓口情報
「申請の仕方がわからない」「どのサービスが合うのか迷っている」という時に頼れるのが相談窓口です。
主な相談先
- 地域包括支援センター
高齢者の総合相談窓口で、認知症や介護に関する不安、生活支援などを無料で相談できます。 - 市区町村の介護保険課
介護保険の申請や制度利用についての窓口です。 - 医療機関(かかりつけ医)
認知症の診断や治療のスタート地点。介護保険の申請に必要な意見書も作成。 - 認知症サポート医・専門医療機関
地域によっては認知症専門の医療体制があり、本人と家族を対象に相談を受け付けています。 - 認知症カフェ・家族の会
当事者と家族が交流でき、気持ちの負担が軽くなる場所です。
介護保険を利用するメリット
認知症の兆候が出始めた段階から相談し、適切に制度を利用することには大きなメリットがあります。
- サービスを利用することで、家族の介護負担が減る
- 本人の生活の質を維持しやすくなる
- 医療・介護・地域との連携が取りやすくなる
- 早めに制度やサービスを活用できることで、進行への備えができる
兆候に気づいたら「相談」が第一歩
認知症の兆候は、家族や身近な人だからこそ気づけるものです。気づいたタイミングで「様子をみよう」ではなく、相談の一歩を踏み出すことで、その後の生活が大きく変わります。
介護保険の申請は時間がかかるため、兆候が見られたら早めに開始するのがおすすめです。地域包括支援センターや自治体の窓口に問い合わせるだけでも、専門的なアドバイスが得られ、不安を和らげることができます。
大切な人と家族自身が安心して暮らせるように。認知症の兆候を見逃さず、早めの医療と制度の利用によるサポートを考えていきましょう。
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