
ご家族の介護を続けていると、「以前よりも手がかかるようになった」「最近、1人でできることが減ってきたかもしれない」と感じる時期が訪れます。
介護保険制度では、支援や介護がどれくらい必要かを示す目安として「要支援1〜2」「要介護1〜5」という区分が決められています。この区分(要介護度)が重くなることを、一般的に「介護度が上がる」と表現します。
介護度が上がると、利用できる介護サービスが増えたり、支給される限度額が上がったりするため、ご家族の負担を減らす大きな助けになります。しかし、「どのような状態になると介護度が上がるのか」「何を基準に判断されているのか」について、詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。
この記事では、介護度が上がる具体的なポイントや原因、変化に気づいたときの対応方法について、専門用語をできるだけ使わずにわかりやすく解説します。ご家族の状況と照らし合わせながら、ぜひ最後までお読みください。
そもそも「介護度」とはどのような仕組み?
介護度が上がるポイントを理解するために、まずは介護保険制度における「要介護度」の考え方を知っておきましょう。
介護度は「手間の多さ」で決まる
多くの方が「病気が重いほど介護度が高くなる」と考えがちですが、実は少し違います。
介護度は、病気の名前や症状の重さそのものではなく、「その人の生活を支えるために、どれくらいの時間と手間がかかるか」という点(介護の手間)を基準に判断されます。
たとえば、病気を持っていなくても、脚力が弱って一人で歩けない場合や、認知症によって一人で安全に生活することが難しい場合は、「手がたくさんかかる」と判断され、介護度が高くなります。
介護度の8段階の区分
介護保険の区分は、軽い順に以下の8つに分かれています。
- 非該当(自立): 支援や介護を必要としない状態
- 要支援1〜2: 日常生活はほぼ一人でできるが、部分的な支援が必要な状態
- 要介護1〜5: 日常生活のさまざまな場面で、継続的な介護が必要な状態
要介護度が「1」から「5」へ進むにつれて、必要な介護の手間が増え、「介護度が上がった」状態になります。
介護度が上がる主なポイントと具体例
それでは、どのような変化が起きると「介護度が上がる」と判断されるのでしょうか。審査では主に「身体的な変化」と「認知機能や行動の変化」の2つの側面が確認されます。
日常生活の具体例とあわせて、ポイントを順番に見ていきましょう。
ポイント①:身体機能の低下(一人でできることが減る)
身体の筋力やバランス感覚が低下し、日常の基本的な動作に手助けが必要になると、介護度が上がる大きな要因になります。
移動(歩く・立ち上がる)の変化
- 以前: つたい歩きや杖を使って、一人で部屋の中を移動できていた。
- 変化後: 一人で立つことができなくなり、移動のたびに体を支える介助が必要になった。車椅子への移乗にも手助けがいる。
排泄(トイレ)の変化
- 以前: トイレまで自分で歩いて行き、パンツの脱ぎ履きも自分でできていた。
- 変化後: トイレに行く間に合わなくなることが増えた。また、オムツの交換や後始末をすべて家族やヘルパーが行うようになった。
食事の変化
- 以前: 箸やスプーンを使って、自分で食事をとることができていた。
- 変化後: 食べ物を口まで運ぶことができなくなり、全介助(食べさせてもらう状態)になった。また、食べ物をうまく飲み込めなくなってきた(嚥下障害)。
入浴や着替えの変化
- 以前: 声をかければ、自分で服を選んで着替えることができた。
- 変化後: 服のボタンが留められなくなったり、季節に合わない服を着ようとしたりするため、最初から最後までの手伝いが必要になった。
ポイント②:認知機能の低下と「行動・心理症状」のあらわれ
認知症が進行したり、認知機能が低下したりすることも、介護度が上がる重要なポイントです。特に「日常生活の安全が保てなくなること」や「見守りの時間が増えること」が評価されます。
記憶力や理解力の低下
- 以前: 日時や場所を忘れることはあっても、会話はスムーズに成り立っていた。
- 変化後: 家族の顔や名前が分からなくなったり、今自分がどこにいるのか判断できなくなったりして、一日中不安そうにしている。
徘徊(はいかい)や道迷い
- 以前: 近所のお散歩に一人で行って、無事に戻ってきていた。
- 変化後: 一人で外に出て行き、帰り道が分からなくなってしまう。警察に保護されることが増え、片時も目を離せなくなった。
危険な行動(火の不始末など)
- 以前: 自分で料理やお湯沸かしを行っていた。
- 変化後: ガスコンロをつけっぱなしにしたり、食べられないものを口に入れたりするようになり、重大な事故の危険が高まった。
感情の不安定さ(暴言・拒絶)
- 以前: 穏やかに介助を受け入れていた。
- 変化後: 介護されることを強く嫌がり、怒り出したり大声を出したりするため、介助にかなりの時間と労力がかかるようになった。
このように、「介助がないと危険」「目が離せない時間が長くなった」という状態になると、介護度が高く判定されやすくなります。
なぜ介護度は上がってしまうのか?その原因とは
介護度が上がるきっかけには、どのようなものがあるのでしょうか。主な原因を知っておくことで、事前の予防や早めの対処に役立てることができます。
原因①:怪我や急な病気(骨折・脳血管疾患など)
高齢の方にとって、特に注意が必要なのが「転倒による骨折」です。 足を骨折して入院すると、長い間ベッドで過ごすことになります。その結果、脚の筋肉が急激に衰え、退院時には一人で歩けなくなってしまうケースが少なくありません。
また、脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患を発症すると、手足に麻痺が残ったり、言葉がうまく話せなくなったりして、一気に介護が必要になることがあります。
原因②:入院や環境の変化による「廃用症候群」
病気の治療のために長期間入院したり、施設へ引っ越したりするなどの環境変化も影響します。
体を動かさない期間が長く続くと、筋肉や関節が固まり、心身の機能が低下してしまいます。これを「廃用症候群(はいようしょうこうぐん)」と呼びます。また、環境の変化によるストレスから、認知症の症状が一気に進んでしまうこともあります。
原因③:加齢による自然な衰え
特別な病気や怪我がなくても、歳を重ねるにつれて少しずつ体力が落ち、関節の痛みが増していくことがあります。また、認知機能もゆっくりと低下していくため、数年単位で徐々に介護度が上がっていくのはごく自然なことです。
介護度が上がると生活はどう変わる?
介護度が上がると、介護保険から給付される限度額や、利用できるサービスの範囲が変わります。ご家族と本人にとってどのような変化があるのかを解説します。
使える介護サービスが増える
介護度が高くなると、介護保険から支給される「区分支給限度基準額(限度額)」が増額されます。
これにより、以下のような調整が可能になります。
- 訪問介護(ヘルパー): 来てもらう回数を増やし、排泄や着替えの手伝いを手厚くする。
- デイサービス(通所介護): 利用する曜日を増やし、日中の見守りとリハビリの機会を増やす。
- ショートステイ(短期入所): 泊まりのサービスを活用して、介護をしているご家族の休息時間を確保する。
介護施設への入所選択肢が広がる
介護度によって、申し込むことができる施設の種類が変わります。
たとえば、公的な介護施設である「特別養護老人ホーム(特養)」は、原則として「要介護3以上」でなければ入所申請ができません。介護度が「3」に上がることで、特養への入所という選択肢が新しく生まれます。
家族の心理的・身体的負担が変化する
介護度が上がったことを「ショックだ」と感じるご家族は少なくありません。ご本人の状態が変化していく様子を見るのは、切なく辛いものです。
しかし、適切に介護度を見直し、介護サービスの利用量を増やすことで、「家族だけで頑張らなければいけない」という限界状態から抜け出すことができます。プロの手を借りることで、ご家族自身の心と体の健康を守ることができるようになります。
介護度の見直し(区分変更)を申請する手順
「最近、明らかに介助の手間が増えた」「現在の介護度ではサービスが足りない」と感じたときは、認定の有効期間中であっても、介護度の上方修正を求める手続きができます。
これを「要介護認定の区分変更申請(くぶんへんこうしんせい)」と呼びます。手続きの流れをわかりやすくまとめました。
【ステップ1】ケアマネジャーに相談する
↓
【ステップ2】役所の窓口へ申請書を提出する
↓
【ステップ3】認定調査(聞き取り調査)を受ける
↓
【ステップ4】主治医意見書の作成(医師による診断)
↓
【ステップ5】審査判定と新しい結果の通知
ステップ1:ケアマネジャーに相談する
まずは、普段担当してもらっているケアマネジャー(介護支援専門員)に相談しましょう。
「最近、トイレの手伝いに時間がかかるようになった」「夜間に起き出すことが増えて困っている」など、具体的なお困りごとを伝えます。ケアマネジャーは日頃の様子を把握しているため、区分変更の申請が必要かどうか、アドバイスをしてくれます。
ステップ2:市区町村の窓口へ申請書を提出する
お住まいの市区町村の介護保険担当課、または地域包括支援センターに「要介護認定・要支援認定区分変更申請書」を提出します。
手続きは、ご家族が行うこともできますし、ケアマネジャーに代行してもらうことも可能です。
ステップ3:認定調査を受ける
申請後、調査員が自宅や病院・施設を訪問し、本人の状態を確認する「認定調査」が行われます。
調査員は、以下のポイントを中心に聞き取りを行います。
- 麻痺や関節の動き(身体機能)
- 立ち上がりや歩行、起き上がり(基本動作)
- 食事、排泄、着替え、入浴(日常生活動作)
- 意思疎通や記憶力(認知機能)
- 徘徊や暴言などの有無(行動・心理症状)
認定調査で大切なコツ
認定調査の際、ご本人が張り切ってしまい、普段はできないことを「できます!」と答えてしまうことがよくあります。
調査員には「普段の、一番困っている状態」を知ってもらう必要があります。そのため、ご家族は以下の準備をしておきましょう。
- 事前にメモを用意する: 「夜間に何度も起きてしまう」「着替えに30分以上かかる」など、具体的な手間や時間を書き留めておきます。
- 同席して伝える: ご本人が席を外した際や、調査の場に同席して、実際の生活の様子を詳しく調査員に伝えます。
ステップ4:主治医意見書の作成
市区町村から、本人の主治医(かかりつけ医)へ「意見書」の作成が依頼されます。
医師が「どのような病気があり、どのような介護の手間が必要か」を医療的な視点から記入します。日頃から診察の際に、困っている症状や生活の変化を主治医に伝えておくことが大切です。
ステップ5:審査と新しい認定結果の通知
認定調査の結果と主治医意見書をもとに、専門家が集まる「介護認定審査会」で審査が行われます。
申請から約1ヶ月ほどで、新しい介護度が記載された被保険者証が届きます。新しい介護度は、申請した日にさかのぼって適用されるため、申請したその日から必要なサービスの準備を進めることができます。
介護度が上がったときに家族が知っておくべきアドバイス
介護度が上がることは、ご本人にとってもご家族にとっても大きな変化です。戸惑わずに対応するためのポイントをお伝えします。
① 介護サービスの計画(ケアプラン)をすぐに見直す
新しい介護度が決定したら、ケアマネジャーと一緒にケアプラン(介護サービス利用計画)を作り直します。
増えた給付額を活用して、どのようなサービスを組み込めばご家族の負担が減り、ご本人が安全に暮らせるかを具体的に話し合いましょう。
② 一人で抱え込まずプロを頼る
介護度が上がると、ご家族の体力や気力だけではカバーしきれなくなる場面が増えます。
「自分がもっとしっかり介護しなければ」とご自身を責める必要はありません。訪問介護、デイサービス、ショートステイなどの外部サービスを積極的に利用することは、ご本人の安全と家族の笑顔を守るために欠かせない選択です。
③ 住宅改修や福祉用具の見直しを行う
身体の機能が低下した場合は、自宅の環境を整えることも重要です。
- 手すりの取り付けや段差解消(住宅改修)
- 特殊寝台(介護用ベッド)や車椅子のレンタル
介護度が上がることで、レンタルできる福祉用具の種類も増えます(例:要介護2以上でベッドや車椅子のレンタルが介護保険で可能になります)。環境を整えることで、介護の手間を大きく減らすことができます。
まとめ
「介護度が上がるポイント」について、重要な内容を改めて整理しましょう。
- 介護度は「手間の多さ」で決まる: 病気の重さではなく、日常生活にどれくらいの介護や見守りが必要かで判断されます。
- 身体と認知面の両方が影響する: 歩行や排泄の介助が必要になったり、認知症による行動の変化で目が離せなくなったりすると、介護度が上がります。
- 変化を感じたら「区分変更申請」を行う: 現在の介護度でサービスが足りないと感じたら、我慢せずにケアマネジャーや市区町村の窓口へ相談しましょう。
- 認定調査では「普段の困りごと」を正確に伝える: 本人が無理をして「できる」と言ってしまうことがあるため、ご家族が事前にメモを用意して同席することが大切です。
介護が必要な方の状態は、時間とともに変化していくのが当たり前です。介護度が上がることを恐れず、状況に合わせて介護保険制度を賢く活用していきましょう。
ご家族だけで悩みを抱え込まず、ケアマネジャーや地域包括支援センターなどの専門家に相談しながら、無理のない介護生活を続けていってください。

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