
最近、中国のSNSやニュースで大きな話題となっている言葉に「専業子供(フルタイム・チルドレン)」があります。読んで字のごとく、「子供でいることを専業として生きる」という意味です。つまり、若者が就職や独立を選ばず、親からの生活支援を受けながら“家の子供”として暮らすという新しいライフスタイル。
驚きましたか?「それってただのニートじゃないの?」と思うかもしれません。ですが、中国の専業子供は、日本のニートや引きこもりとは少し違います。親と子が互いに納得した上で形成される、一種の「家族内雇用」制度のように語られることもあるのです。
なぜ今、中国でこの現象が注目されているのか、その背景を見ていきましょう。
若者の就職難と社会不安
「専業子供」という現象の根底には、中国社会の経済的・雇用的な問題があります。
- 中国の都市部では、大学進学率が年々上昇。卒業生の数は膨大ですが、就職先は限られており、競争は激化。
- 一方で中国経済は減速気味で、従来のように「働けば成長に乗れる」という神話は崩れつつあります。
- 物価や住宅価格は高騰し、若者が独立して暮らすハードルは急上昇。
こうした状況で「安定した仕事が見つからないなら、無理に就職せず、実家で親の支援を受けた方が良い」と考える人が増えています。ある意味、合理的な戦略なのです。
「親の投資意欲」と世代間の文化
専業子供が成り立つ背景には、親世代の意識も関係しています。
中国の多くの親は“独生子女政策”の時代を過ごしており、子供は一人っ子である場合が多い。だからこそ「子供にできるだけよい環境を与えたい」「子供が苦労するより、家族の中で守ってあげたい」という気持ちが強いのです。
実際には、「親が子供を養う」のではなく「子供が家庭内業務に従事する」という形で均衡がとられている場合もあります。
たとえば…
- 朝食や食事の準備をする
- 親の病院への付き添いや買い物に同行する
- 家事や掃除を積極的にこなす
これらを“仕事”のように引き受け、生活費や小遣いを親から得る。こうした関係性が「専業子供」という言葉に結びついています。
「寝そべり族」から「専業子供」へ
中国のネット文化を追っている人なら「寝そべり族(タンピン)」という言葉を覚えているかもしれません。これは、出世競争や過酷な労働から降りて、最低限の生活を好む若者たちを指す言葉です。
専業子供は、その延長線上にある概念といえます。違うのは、「親が支援してくれるなら無理に社会で消耗しない」という方向で、より“家族依存型”にシフトしたことです。
この変化からは、中国若者文化の柔軟さと同時に、社会への諦めや脱力感もにじみ出ています。
日本の「パラサイトシングル」との違い
日本でも一時期「パラサイトシングル」という言葉が流行しました。仕事をしていても実家暮らしを続け、生活費を親に頼り、自由に消費を楽しむ若者を指しました。
ですが中国の専業子供は、必ずしも働いていない点が特徴です。むしろ「家庭内労働で対価を得る」という関係が強調される分、ただの怠惰な生活とは受け取られていません。そこにあるのは、社会の不安定さを背景にした“親子の新しい共同体モデル”とも言えるのです。
メリットとデメリット
専業子供という生き方は、当事者にとっては安定や安心をもたらしますが、一方で課題もはらんでいます。
メリット
- 就職競争から距離を置き、心身のプレッシャーが軽減される
- 親世代と密な生活を送れるため、介護やサポートに役立つ
- 社会的に落伍した感覚を抱かずに生活を続けられる
デメリット
- 自立心や職業スキルが育ちにくい
- 親世代の経済力に依存するため、リスクが高い
- 社会全体で労働人口が減少する中、新たな不均衡を生む
中国社会への影響
専業子供の増加は、一部の家庭内だけの話では終わりません。国家的に見れば、労働市場から人材が流出していることを意味します。さらに、親の資産や年金に頼る生活は、格差拡大を招く可能性もあります。
「専業子供」という現象は、単なる流行語にとどまらず、中国社会の未来を映す鏡とも言えるのです。
あなたはどう思う?
最後に、この記事を読んでいるあなたに問いかけたいのです。
もしあなたが中国の若者だったら、専業子供という生き方を選びますか?
それとも、大変でも自分で仕事を探し、独立を目指しますか?
実はこの問題、日本や他の国でも無関係ではありません。若者の就職難、親への依存、格差社会…。どれもグローバルなテーマです。中国の「専業子供」の話題をきっかけに、家族と社会の在り方を改めて考えることができるのではないでしょうか。
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