市長にしがみつく人たちの「本音」

「もういいじゃないですか、市長も長くやりましたね」
そう言いたくなるほど、任期を重ねる市長がいます。市民から見れば「誰でもいいから新しい風を」と思っても、当人は席を譲る気配を見せない。
なぜ、市長という職はそんなに“離れがたい”のか。
そこには、「名誉」や「使命感」だけでは語れない、もっとリアルな理由――お金の流れが存在します。
市長という職に流れ込む「見えないお金」
まず、基本的な報酬から見てみましょう。
中規模都市の市長の場合、月額給与はおよそ90万〜120万円前後、期末手当(いわゆるボーナス)を含めると年間1,500万円を超えることも珍しくありません。
さらに任期満了や退職時には、退職金という大きな“ボーナス”が待っています。
1期(4年)でも1,000万円以上、数期務めれば3,000〜4,000万円に達する自治体も。
つまり、続投すればするほど「安定した高収入+退職金の蓄積」という仕組みが成り立ちます。
民間企業の社長ですら、景気や業績次第で報酬が減ることがあります。しかし、市長職はそう簡単に減りません。
「政治資金」と「寄付」の微妙な関係
もう一つの“お金の道”が、政治資金です。
市長は政党公認であれ無所属であれ、選挙活動に必要な資金を集めます。この政治資金の中には、企業や支持団体からの寄付、パーティー券収入などが含まれます。
もちろん、法律に基づく報告義務があります。
ただ、その報告は“すべてを透明にする”わけではなく、どこまでが経費か?誰が出した寄付か? の実態は曖昧なケースも。
地元企業との「微妙な距離感」は、時に市政の意思決定に影響を及ぼします。
ある地方都市では、市長の親族企業が公共工事の入札に関与していた例もあります。「違法ではない」とされても、“信頼の線引き”は非常に曖昧なのです。
「市長という権力」を通じて得られる非金銭的メリット
お金そのものよりも深い魅力が、「人脈」と「影響力」です。
市長になると、地元企業のトップ、国会議員、関係省庁、教育委員会、地元メディアなど――あらゆる組織との接点をもつことになります。
この“つながり”は、退任後も大きな財産です。
再就職や顧問ポスト、地元財団の理事、大学講師などに声がかかるのも珍しくありません。
つまり、「市長をやめても食いっぱぐれない」構造が生まれる。
逆に言えば、そのような“特権的ポジション”を一度味わうと、なかなか手放せないというのも人間心理でしょう。
権力は「しがみつく」ほど強くなる
政治の世界では、長く在職するほど影響力が増します。
市の職員も議員も、「次もこの市長だろう」と思えば、忖度が働きやすくなる。
予算配分、ポスト人事、補助金の行方――そのすべてに“長期政権”の影が落ちます。
そして、長期政権の裏では“地元利権”が固定化しがちです。
建設業、医療法人、学校法人など、市からの発注や補助を受ける団体が“恩義”を感じる構造。
無言のうちに、「市長は続けてくれた方が都合がいい」という空気が広がります。
市民にとっての「損得勘定」
ここで一度、私たち市民側の視点に戻ってみましょう。
長く続く市長政権は、果たして“悪”なのでしょうか?
確かに、経験や実績、行政知識は積み重なります。しかし同時に、新しい発想や改革意識は鈍ります。
公共事業が特定企業に偏る、補助金の配分が公平でない、あるいは市民の声が届かない――それらは“慢性的支配”の副作用ともいえます。
本来、市長は「市民の代表」であるはずが、気づけば「市役所の権力者」になってしまう。
任期制の意味を考えるなら、「変わる勇気」を持たせるのは市民の一票なのです。
「金のため」とは限らない――もうひとつの“逃げられない理由”
一方で、市長本人にとっての“しがみつく理由”は、必ずしも金銭的なものだけではありません。
長年続けていれば、市政は自分の体の一部のようになります。
「自分が抜けたら街が崩れるのでは」という恐怖。
「これだけやったのに、途中で投げ出したと思われたくない」というプライド。
こうした感情が、結果的に「もう一期だけ…」という決断につながることも少なくありません。
人間の欲は複雑で、お金・名誉・責任感が絡み合うのです。
市長とお金の透明化、今後の課題
近年は情報公開制度の強化により、地方行政の透明性は一定の進展を見せています。
しかし、報酬や退職金の見直し、政治資金の監査強化はまだ道半ばです。
また、SNSや地域メディアが「市長の金の使い方」を可視化する時代です。
公費出張、交際費、交友団体への寄付――従来なら市民が気づかなかったことも、いまはシェアされ拡散されます。
市民の監視力こそが、最も効果的な“再発防止策”といえるでしょう。
私たちができる「市民のチェック力」
あなたの街の市長がどんなお金を受け取り、どこに使っているのか。
それを確認できる資料は、意外にもオープンデータや情報公開請求で手に入ります。
選挙のたびに「誰が顔を出しているか」より、「お金がどこから来ているか」を見てください。
市政報告会や議会中継をチェックし、発言と実績が一致しているかを確かめてください。
市長は市民の投票で選ばれる以上、「市民が無関心であるほど、長く座り続けられる」職でもあります。
まとめ:権力にしがみつく街を、しがみつかれない街へ
結局、市長が職にしがみつく最大の理由は「失うものが多すぎる」からです。
収入、人脈、影響力、プライド――それらが一度に失われる恐怖。
でも、市民が強く、賢く、感情よりも論理で政治を見抜けるようになったとき、
市長たちは“お金のためにしがみつく政治”から、“信念で働く政治”へと変わらざるを得なくなるでしょう。
あなたの一票が、その変化の第一歩です。
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