
みなさんは「農業テロ」という言葉を聞いたことがありますか?
農業テロとは、農業に対して意図的に病原菌をばら撒くなど、農作物や食糧供給を脅かすテロ行為を指します。
最近、アメリカで中国籍の男女が、農業テロに使われる恐れのある病原菌「赤カビ病菌(フザリウム・グラミネアラム)」を密かに持ち込もうとした事件が大きな話題となりました。
この事件をきっかけに、農業テロと赤カビ病の関係、そして私たちの食生活や食糧安全保障に与える影響について、一緒に考えてみましょう。
赤カビ病とは?その症状と被害
赤カビ病は、小麦や大麦、トウモロコシ、米などの穀物に発生する深刻な病気です。
特に小麦では、穂の部分に桃色から橙色のカビ(分生子の塊)が発生し、感染が進むと穀物が枯れ、収穫量が大きく減少します。
赤カビ病に感染した穀物は「赤かび粒」と呼ばれ、粒が細く、白っぽく退色し、しわが寄ってしまいます。
また、赤かび病菌の中には、人や家畜に有害なカビ毒(デオキシニバレノール、DON)を産生するものもあり、これを摂取すると嘔吐や肝機能障害、生殖障害などの健康被害を引き起こすことが知られています。
農業テロの実例と赤カビ病の関係
農業テロが実際に発生した例として、1989年にブラジルのバイーア州でカカオプランテーションにカカオの天敵である天狗巣病を引き起こす菌類がばら撒かれた事件があります。
この事件により、ブラジルは世界第二位のチョコレート生産国から一転、純輸入国となり、多くの農園労働者が職を失い、社会に大きな混乱をもたらしました。
今回、アメリカで発覚した赤カビ病菌の密輸事件も、同様に農業テロの危険性を浮き彫りにしています。
FBIによると、密輸された菌は穀物に甚大な被害を与えるだけでなく、人体や家畜にも悪影響を及ぼす「農業テロ兵器」として分類されています。
実際、感染が広がれば穀物は枯れ果て、その毒性で人や動物に嘔吐、肝機能障害、生殖障害など深刻な症状を引き起こす可能性があります。
赤カビ病の防除と対策
では、赤カビ病から私たちの食を守るためにはどうすればよいのでしょうか?
まず、赤カビ病の発生を抑えるためには、適切な防除時期と薬剤の選択が重要です。
小麦の場合、開花始めから開花盛期(出穂期の約7~10日後)に薬剤を散布することで、発病抑制とカビ毒(DON)の低減効果が高まります。
さらに、開花10~20日後に2回目の散布を行うことで、より高い防除効果が期待できます。
また、過剰な施肥は感染しやすい期間を長引かせるため、施肥量にも注意が必要です。
赤カビ病は気象条件によって多発しやすいため、雨が多い年や湿度が高い年は特に注意が必要です。
近年は効果の高い薬剤も開発されており、昔に比べると大きな被害になる頻度は減っていますが、依然として重要な病害であることに変わりはありません。
カビ毒(DON)と食の安全
赤かび病菌が産生するカビ毒(DON)は、人や家畜に摂取されると嘔吐や肝障害、生殖障害などを引き起こすことが知られています。
日本では、2002年に小麦のカビ毒汚染の暫定基準値(1.1ppm)が設定され、これを超える小麦は市場流通が規制されていました。
2022年4月からは基準値がさらに厳しくなり(1.0ppm)、規制が強化されています。
このように、赤カビ病は収量や品質の低下だけでなく、食の安全確保という観点からも防除を欠かせない重要病害となっています。
農業テロの脅威と食糧安全保障
今回のアメリカでの事件をきっかけに、農業テロの脅威が改めて注目されています。
農業テロは、病原菌や害虫を意図的にばら撒くことで、特定地域や国の農業を壊滅させ、経済や社会に大きな混乱をもたらす可能性があります。
実際、ブラジルのカカオ農園事件では、たった6人の技術者によって25万人の農園労働者が職を失い、100万人が都市へ移住するなど、社会に大きな影響を与えました。
アメリカでの赤カビ病菌の密輸事件も、同様に国の食糧安全保障や経済に大きな影響を及ぼす可能性があるため、当局は警戒を強めています。
私たちにできること
農業テロや赤カビ病の脅威に対して、私たちはどう向き合えばよいのでしょうか?
まず、農業関係者は防除の適期を逃さず、適切な薬剤散布や栽培管理を行うことが重要です。
消費者は、信頼できる生産者や流通業者から穀物を購入し、食の安全を守る意識を持つことが大切です。
また、農業テロのような事態が発生した場合、迅速な情報共有と対応が求められます。
私たち一人ひとりが農業や食糧生産の重要性を理解し、食の安全を守る意識を持つことが、将来の食糧危機を防ぐ第一歩になるのではないでしょうか。
赤カビ病と農業テロの未来
赤カビ病は、古くから小麦の重要病害として知られており、今でも世界的に大きな被害をもたらしています。
近年は効果の高い薬剤も開発され、被害は減少傾向にありますが、気象条件や耐性菌の出現など新たな課題も出てきています。
一方、農業テロの脅威は、グローバル化が進む現代社会でますます深刻化しています。
病原菌が国境を越えて拡散するリスクは高まっており、各国が連携して対策を強化する必要があります。
まとめ
農業テロと赤カビ病は、私たちの食生活や食糧安全保障に大きな影響を与える深刻な脅威です。
赤カビ病は穀物に甚大な被害をもたらし、カビ毒によって人や家畜の健康も脅かします。
農業テロは、病原菌を意図的にばら撒くことで、社会や経済に大きな混乱をもたらす可能性があります。
私たちは、防除の適期を守り、食の安全を意識し、農業テロの脅威にも目を向けることが大切です。
今後も農業や食糧生産の現場から目を離さず、食の安全と未来を守るための取り組みを続けていきましょう。
追記:赤カビ病の最新情報と農業テロ対策
近年、赤カビ病の防除技術は大きく進歩し、効果の高い薬剤や耐性品種の開発が進んでいます。
しかし、耐性菌の出現や気象変動による発生リスクの増加など、新たな課題も浮上しています。
また、農業テロ対策として、病原菌の流入を防ぐための検疫強化や、情報共有体制の整備が各国で進められています。
私たち消費者も、食の安全や農業の重要性を再認識し、生産者や流通業者を応援することが大切です。
最後に
農業テロと赤カビ病は、単なる農業の病害にとどまらず、国の安全や私たちの生活に直結する重要な問題です。
今後も最新情報に注目し、農業と食の安全を守るために、一人ひとりが意識を高めていきましょう。
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