この記事でお伝えしたいこと

この記事では、「アルムナイ採用って最近よく聞くけれど、うちの会社でも導入すべきだろうか?」と感じている人事・経営層の方に向けて、できるだけ専門用語をかみ砕いてお話ししていきます。
途中で「自社に当てはめるとどうなるか?」をイメージしていただけるように、具体例やチェックポイントも交えながら進めますので、ぜひ自社の採用戦略を思い浮かべながら読み進めてみてください。
アルムナイ採用とは?基本のキホン
まずは、「そもそもアルムナイ採用って何?」というところから整理していきましょう。
- アルムナイ:もともとは「卒業生」「同窓生」を意味する言葉
- ビジネスの文脈では:「自社を退職した元社員」のことを指す
- アルムナイ採用:そのアルムナイを、もう一度社員として雇用する仕組み・制度のこと
いわゆる「出戻り採用」「カムバック採用」といった表現で呼ばれることもあります。日本でも人材不足が深刻化し、優秀な人材を新規で採り続けることが難しくなっているなか、「一度辞めたけれど、会社のことをよく知っていて、しかも外で経験を積んできた人」をもう一度迎え入れようという動きが広がっています。
ポイントは、「単発の再雇用」ではなく、会社として意図的に仕組み化するという点です。単に「辞めた社員から再入社の相談が来たら、その都度考える」というスタンスから一歩進んで、「アルムナイと継続的につながり、必要なタイミングでオファーできる状態をつくる」ことが、近年のアルムナイ採用の特徴と言えます。
なぜ今、アルムナイ採用が注目されるのか
次に、「なぜここ数年で、急にアルムナイ採用が取り上げられるようになったのか」を見ていきます。背景を押さえておくと、経営陣への説明もしやすくなります。
1. 人材不足・採用競争の激化
少子高齢化が進み、労働人口そのものが減少している日本では、中途採用市場の有効求人倍率も高止まりしています。優秀な人材を採りたくても、「そもそも母集団が集まらない」「応募があっても競合他社との取り合いになる」といった状況は、多くの企業で実感されているのではないでしょうか。
このような中で、すでに自社を知っているアルムナイに目を向けることは、採用経路の多様化であり、採用効率を高める打ち手のひとつと捉えられています。
2. 雇用の流動化とキャリア観の変化
終身雇用が当たり前ではなくなり、「一社でキャリアを終える」のではなく、「複数社を経験する」「フリーランスを挟む」といったキャリアが一般的になっています。
その中で、企業側も「一度退職したらそれっきり」という発想から、「一度外に出て、経験を積んだ上で戻ってきてもらう」という柔軟な考え方にシフトしつつあります。社員側も、「辞めた会社には二度と戻れない」という固定観念が薄れ、ライフステージやキャリアの変化に応じて「出戻り」を選択肢に入れる人が増えています。
3. 企業ブランディング・エンゲージメントへの期待
アルムナイ採用を積極的に行っている企業は、「辞めた人にも開かれている会社」「いつでも戻れる会社」としてポジティブなイメージを持たれやすくなります。
これは、アルムナイだけでなく、今いる社員のエンゲージメントにも良い影響を与えます。
「辞めても関係が終わらない会社なんだ」と感じてもらえることで、会社に対する信頼感や安心感が高まり、「ここでキャリアを築きたい」という気持ちが強くなる効果も期待できます。
アルムナイ採用のメリット
では、企業にとってアルムナイ採用にはどんなメリットがあるのでしょうか。ここが、社内提案の際の“説得材料”にもなりますので、ひとつずつ整理していきます。
1. 即戦力として早期に活躍してもらえる
アルムナイは、過去に自社で働いた経験を持っています。
- 業務内容の大枠
- 組織構造や意思決定の流れ
- 社風・カルチャー
こうした点をゼロから教える必要がないため、オンボーディングの期間を短縮しやすいのが大きな利点です。もちろん、在籍時から一定期間が空いている場合はキャッチアップが必要ですが、それでも「完全な新入社員」に比べればキャッチアップの負荷は小さくて済むケースがほとんどです。
「採用したのはいいけれど、立ち上がりに時間がかかって現場が疲弊してしまう」という中途採用のよくある課題を、ある程度和らげられる点は、現場にとっても大きなメリットになります。
2. 採用コスト・教育コストを抑えられる
一般的な中途採用では、求人媒体への掲載費や人材紹介会社への成功報酬がかかります。アルムナイ採用は、自社のネットワークを活用できるため、こうした外部コストを抑えやすいのが特徴です。
また、前述の通りオンボーディングにかかる期間が短くなることで、研修やOJTにかかるコスト、現場社員の工数も軽減できます。もちろん、アルムナイ採用にも一定のコストは発生しますが、「採用単価」「立ち上がりまでのトータルコスト」という観点で見ると、一般的な中途採用よりもコストパフォーマンスの高い手法になり得ます。
3. 採用のミスマッチリスクを減らせる
アルムナイの場合、企業側は過去の評価や業務実績、人となりをある程度把握しています。
- どのような仕事ぶりだったのか
- 上司や同僚との関係性はどうだったのか
- 会社のカルチャーに馴染んでいたのか
こうした情報があることで、「入社してみたら思っていた人材と違った」というミスマッチのリスクを大幅に下げることができます。本人側も、「あの会社に戻れば、だいたいどんな雰囲気で、どんな仕事をするのか」がイメージできているため、入社後ギャップも少なく、定着率が高まりやすいと言われています。
4. 外部経験を通じた組織活性化
一度外の会社で働いて戻ってきたアルムナイは、単に「昔の自社を知っている人」というだけでなく、「他社のやり方を知っている人」でもあります。
- 他社のベストプラクティス
- 異なる業界・職種の視点
- 新しいツール・技術の活用方法
こういった“外の空気”を組織に持ち込んでくれることで、業務改善のアイデアや新しいビジネスのヒントが生まれる可能性があります。
「昔の同僚が、より視野の広いプロフェッショナルとして戻ってくる」というのは、組織にとって大きな刺激になります。
5. 企業ブランディング・エンゲージメントの向上
アルムナイと良好な関係を維持し、再入社の道も開いている企業は、「人を大切にする会社」というイメージを持たれやすくなります。
- 採用広報でのアピール材料になる
- 在籍社員のロイヤルティ向上につながる
- アルムナイ自身が“ファン”として会社の評判を広めてくれる
このような波及効果を期待できる点も、アルムナイ採用の重要なメリットのひとつです。
アルムナイ採用のデメリット・注意点
メリットが多い一方で、アルムナイ採用には注意すべきポイントもあります。ここを押さえずに始めてしまうと、「なんとなく雰囲気で戻したけれど、結局うまくいかなかった」という残念な結果になりかねません。
1. 退職理由の整理を怠ると再離職リスクが高まる
アルムナイが退職した背景を丁寧に確認しないまま、表面的な「即戦力だから」という理由だけで再雇用してしまうと、同じ理由で再度離職してしまう可能性があります。
例えば、以下のようなケースです。
- 給与水準が合わずに辞めたが、条件を変えずに再雇用した
- 上司との相性が悪く退職したが、同じ部署に戻した
- 会社の価値観に違和感を持って辞めたが、カルチャーはほとんど変わっていない
こうした場合、再入社後に同じ摩擦が起きやすくなります。アルムナイ採用を検討する際は、「当時の退職理由」と「今の会社の状況」「本人の希望」がきちんと擦り合っているかを確認することが重要です。
2. 現社員との関係性・不公平感に注意
アルムナイを高い条件で再雇用した場合、現場の社員から「ずるい」「自分たちは報われていない」といった不満が出る可能性があります。特に、同じ職種・同じグレードで働くメンバーがいる部署では、「同じような仕事をしているのに、待遇に差がありすぎる」と感じられると摩擦が生まれやすくなります。
このリスクを減らすには、
- 評価・処遇の基準をできるだけ透明にする
- アルムナイに限らず、外部中途採用者にも同じ基準を適用する
- 必要に応じて現社員への説明の場を設ける
といったコミュニケーションが欠かせません。
3. 「元社員」という幻想にとらわれすぎない
「一度一緒に働いたことがあるから大丈夫だろう」という安心感は、アルムナイ採用の大きな魅力である一方で、油断を生みやすいポイントでもあります。
- 在籍時から時間が経っており、スキルセットや価値観が変わっている
- 会社のフェーズやカルチャーも変化している
- 思い出補正が入り、過大評価してしまう
こういったことは十分起こり得ます。アルムナイだからといって、通常の中途採用プロセスを大幅にショートカットするのではなく、一定の選考・評価プロセスは維持した方が、結果的に双方にとって良い形になりやすいです。
4. 運用設計が中途半端だと形骸化しやすい
アルムナイ採用を「制度」として掲げたものの、
- アルムナイの連絡先や情報を管理していない
- 担当部署がはっきりしていない
- オファーの基準やフローが曖昧
といった状態だと、実質的にはほとんど機能しません。
「とりあえずホームページに“アルムナイ採用歓迎”と書いただけ」で終わらせず、運用フローや責任者、情報管理のルールまで含めて設計することが重要です。
アルムナイ採用を導入する手順
ここからは、「うちでアルムナイ採用を始めるとしたら、何から手を付ければいいのか?」という視点で、具体的なステップを整理していきます。ここは、実務でそのままチェックリストとして使えるパートです。
ステップ1:目的と狙いを明確にする
まずは、「なぜアルムナイ採用を導入するのか」をはっきりさせましょう。
例としては、
- 中途採用の母集団を広げたい
- 特定職種で即戦力採用を強化したい
- 事業拡大に向けて、将来のマネージャークラス候補を確保したい
- エンゲージメントやブランディングを高めたい
などが考えられます。目的が曖昧なままだと、対象とする人材像や制度設計がブレてしまい、社内の理解も得にくくなってしまいます。
ステップ2:対象となるアルムナイ像を定める
次に、「どのようなアルムナイを主な対象とするか」を決めます。
軸の例としては、
- 職種:エンジニア、営業、コンサルタントなど
- グレード:マネージャー以上、ポテンシャル層など
- 退職理由:ポジティブな理由が中心、ネガティブ離職は慎重に検討
- 在籍期間:一定期間以上働いていた人を優先
すべてを厳密に決める必要はありませんが、「誰に声をかけたいのか」が社内で共有されていると、現場も動きやすくなります。
ステップ3:アルムナイの情報を整理・データベース化する
アルムナイ採用は、「誰がどこにいるのか」「どのようなスキルを持っているのか」が分からなければ始まりません。
- 人事データベースに退職者情報を整理する
- 退職時に連絡先(メールアドレス、LinkedIn、X など)を確認しておく
- 希望があればアルムナイコミュニティ(後述)への参加案内を行う
こうした地道な情報の整備が、後々のスムーズな運用につながります。
「今いる人事担当者が元上司に“誰か良い人いませんか”と個別に聞く」だけの属人的な運用に頼らない仕組みを意識しましょう。
ステップ4:アルムナイコミュニティの設計
アルムナイと継続的に関係を保つためには、「コミュニティ」の存在が重要です。
規模やリソースにもよりますが、例えば次のような形が考えられます。
- クローズドなSNSグループ(Facebookグループ、Slackなど)
- メールマガジンやニュースレターの配信
- 年に数回の交流会・オンラインイベントの開催
- 社内ニュースや新規事業の情報共有
ここで大事なのは、「採用したい時だけ連絡する」のではなく、普段から適度な距離感でつながり続けることです。アルムナイにとって「元の会社の今」を知れる場があると、「タイミングが合えば戻りたい」「誰かを紹介したい」と感じてもらいやすくなります。
ステップ5:選考フロー・処遇ルールを決める
アルムナイだからといって、選考を完全に免除すべきかというと、必ずしもそうとは限りません。
- 書類選考は簡略化しても、面接は実施する
- 前職の評価を参考にしつつ、現状のスキルや志向も確認する
- 処遇は「社内基準+市場価格」を踏まえて決める
といったように、「通常の中途採用よりはスピーディだが、一定のフェアさは保つ」バランスを意識すると良いでしょう。
また、給与・役職などの条件面については、現社員との整合性を慎重に検討しておく必要があります。
ステップ6:社内への周知とコミュニケーション
アルムナイ採用は、人事だけが理解していても機能しません。
- 部門長以上向けの説明会を行う
- 社内ポータルやイントラに方針を掲載する
- 「アルムナイ採用で活躍している人」の社内事例を発信する
といった形で、現場の管理職やメンバーにもメリット・ルール感を伝えていきましょう。現場が理解し協力的になれば、「前に部下だったあの人に声をかけてみよう」など、現場発のアルムナイ採用も生まれやすくなります。
アルムナイ採用を成功させるポイント
導入ステップに続いて、運用を軌道に乗せるためのポイントも押さえておきましょう。「制度をつくって終わり」にしないためのコツです。
1. 退職時点から“アルムナイ”として扱う
アルムナイ採用は、「辞めた人をどう扱うか」の思想から始まります。
- 退職の挨拶や手続きの場を、できるだけ前向きなものにする
- 退職の理由や今後のキャリアの希望をきちんと聞く
- 「いつでも戻れるよ」「これからもつながっていたい」というメッセージを伝える
こうした姿勢があるかどうかで、アルムナイ側の心理的ハードルは大きく変わります。退職者を「裏切り者」のように扱ってしまうカルチャーでは、アルムナイ採用はまず根付きません。
2. アルムナイの声を制度設計に反映する
アルムナイコミュニティを運営していると、「戻るとしたら、こんな条件だと嬉しい」「こういう情報があると助かる」といった生の声が集まります。
- イベントの頻度や内容
- 情報提供の仕方(メール、SNS、動画など)
- 選考フローのわかりやすさ
といった点について、アルムナイのフィードバックを取り入れながら改善していくと、制度が“現実に即した形”に育っていきます。
3. 成功事例を社内外へ発信する
実際にアルムナイ採用で入社したメンバーが活躍すると、それ自体が強力なストーリーになります。
- 社内向けには:インタビュー記事、社内報、全社ミーティングでの紹介
- 社外向けには:採用サイト、オウンドメディア、プレスリリース
このように発信することで、
- 社内:アルムナイ採用への理解・協力が進む
- 社外:企業ブランディングや採用広報としてプラスに働く
といった二重の効果を期待できます。「あの人が戻ってきて活躍しているなら、自分もいつか戻ってもいいかもしれない」と思ってもらえることもあります。
4. 「採用」だけにとらわれず、協業や紹介も視野に入れる
アルムナイとの関係は、「再雇用」だけに限りません。
- フリーランス・業務委託としてプロジェクトに参画してもらう
- 顧客やパートナー企業としてビジネス面で協力する
- 紹介・リファラル採用につなげる
といった形で、「外部にいる仲間」として共に価値を生み出していくこともできます。
「戻ってフルタイムで働くのは難しいけれど、プロジェクト単位なら関わりたい」というアルムナイは意外と多いものです。柔軟な関わり方を設計することで、企業にとってのリターンはさらに大きくなります。
どんな企業にアルムナイ採用は向いているか
最後に、「うちの会社はアルムナイ採用に向いているのだろうか?」という問いに対して、いくつか観点をお伝えします。もし当てはまるものが多ければ、ぜひ本格的に検討してみてください。
アルムナイ採用と相性が良いケース
- 退職者が一定数以上いる(過去の母数がある)
- 同じ職種・ポジションで再度活躍してもらえる余地がある
- 外部での経験や人脈を生かしやすい業態(コンサル、IT、営業など)
- 組織カルチャーが比較的オープンで、変化に前向きである
特に、成長フェーズにあるベンチャー・中堅企業では、立ち上げ期に活躍していたメンバーが戻ってくることで、一気に組織が強くなるケースもあります。
注意が必要なケース
- 退職者との関係性が良くないケースが多い
- 評価・処遇の仕組みが不透明で、現場の不満が多い
- 「一度辞めた人は二度と採用しない」という暗黙のルールが強い
こういった場合は、アルムナイ採用の前に、まずは人事制度や組織カルチャーの見直しから着手した方が良いかもしれません。
アルムナイ採用は、「辞めた人との関係性」がそのまま鏡のように返ってくる施策です。そこを正面から見つめ直すことが、実は一番の“組織改革”になる可能性もあります。
まとめに代えて:あなたの会社にとっての「アルムナイ」とは
ここまでお読みいただいて、「うちにも、もし戻ってきてくれたら心強い元メンバーが何人かいるな」と感じたかもしれません。
アルムナイ採用は、単なる採用手法ではなく、「人とのつながりをどう捉えるか」という企業の姿勢が問われる取り組みです。一度離れた人とも、時間を超えて一緒に働ける可能性を開いておくことは、これからの人材獲得競争の中で、じわじわと効いてくる“見えにくい資産”になります。
まずは、頭の中に浮かんだ元同僚や元部下の顔を思い出しながら、「その人たちと、どんな関係を続けていきたいか?」を考えてみてください。その答えが、あなたの会社にとってのアルムナイ採用の出発点になるはずです。

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