生ハムが消える日。イベリコ豚の危機とアフリカ豚熱の猛威──ワクチンなしの脅威が世界を襲う

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生ハムがなくなる?冗談のようで現実的な話

higejii(ひげ爺)
higejii(ひげ爺)

「生ハムが食べられなくなるかもしれない」と聞いて、あなたはどう感じますか?
最初は半信半疑かもしれません。けれど、これは決して大げさな話ではありません。
今、スペインを中心に世界の「生ハム文化」を支えてきたイベリコ豚が、かつてない危機に瀕しています。

原因は、ヨーロッパで猛威を振るう感染症——アフリカ豚熱(ASF: African Swine Fever)
しかもこの病気、ワクチンが存在しないのです。

アフリカ豚熱とはどんな病気?

アフリカ豚熱は、名前の通りアフリカ原産のウイルス性家畜伝染病で、主に豚とイノシシに感染します。
人間には感染しませんが、その致死率は90〜100%とも言われるほど恐ろしく、感染した豚はほぼ助かりません。

しかもさらに厄介なのがこのウイルスの「しぶとさ」です。

  • 加熱や乾燥に強い。
  • 肉製品(ハム・ソーセージなど)にも生き残る。
  • 冷凍しても死なない。

つまり、「生ハム」や「サラミ」などの加工品にも長期間潜伏する可能性があるのです。

「豚熱(CSF)」とは違うの?

よく混同されるのが「豚熱(CSF:Classical Swine Fever)」です。
両方とも豚に感染する伝染病ですが、性質も対策もまったく違います。

比較項目アフリカ豚熱(ASF)豚熱(CSF)
原因ウイルスアスファウイルス属ペスチウイルス属
感染力非常に強い強いがASFよりは弱い
致死率90〜100%低い(ワクチンあり)
ワクチンなしあり(日本は接種済)
発生地域ヨーロッパ、アジア、アフリカアジア中心
人への感染なしなし

つまり、豚熱はワクチンで守れるけれど、アフリカ豚熱は防げない。
これが今、世界中で深刻視されている理由です。

生ハムの本場・スペインで広がる不安

スペインと言えば、なんといってもハモン・イベリコ(Jamón Ibérico)
どこのレストランでも見かける、生ハム界の“最高峰”です。
しかしこのイベリコ豚こそ、アフリカ豚熱の標的になりかねない存在です。

イベリコ豚は放牧され、どんぐり(ベルーサ)を食べながら育ちます。自由に森を歩き回るため、野生イノシシとの接触リスクが極めて高い。
この自然な飼育環境こそが旨味を生む反面、感染症に対しては最も脆いのです。

もしスペインでASFが本格的に蔓延すれば、生ハムの輸出は全面的に停止
数年単位で出荷できない事態になります。
つまり、「世界から生ハムが消える」——それが現実味を帯びているのです。

日本でも他人事ではない

「スペインの話でしょ?」と思うかもしれませんが、実は日本も危険地帯です。

2023年以降、韓国や中国でASFが頻発
海を挟んだ隣国から、感染リスクが常に漂っています。
港湾や空港では水際対策が厳重に行われていますが、海外の肉製品を不正に持ち込む旅行者が後を絶たないのが現実です。

農林水産省は、次のような注意喚起を何度も出しています。

「海外の加工肉製品(ハム・ソーセージ・肉まんなど)を、日本に持ち込まないでください。」

知らず知らずのうちに、ウイルスを日本に“同伴”させてしまう危険性があるからです。

生ハムだけで終わらない経済的影響

ASFの恐ろしさは、単なる「食の問題」にとどまりません。
国全体の畜産経済と食文化を根本から揺るがす可能性を持っています。

例えば——

  • 感染が確認されると、半径数kmの農場で全頭殺処分
  • 生産再開まで数年かかるため、生産者が廃業。
  • 豚肉価格の高騰。
  • 加工食品業界(ハム・ソーセージ・冷凍食品)の打撃。
  • 飲食店のメニューから「生ハム」や「ベーコン」が消える。

スペインではASF警戒のため、一部のブランド豚が流通制限を受ける動きもありました。
失われるのは「食」だけではなく、何世代も続いてきた文化と誇りです。

ワクチンができれば解決する?

科学者たちは今もワクチン開発を進めていますが、ASFウイルスは非常に複雑で、「ワクチンを打っても効果が限定的」などの課題が多くあります。
実験段階では部分的な防御効果があっても、安全性・持続性の問題が解決されていません。

つまり、現時点では「防ぐ=感染源を持ち込まない」しかない。
これがASF対策の唯一の道なのです。

私たちにできること

一般の私たちが取れる行動は、小さいようでいてとても大切です。

  • 海外旅行先で肉製品を買って日本に持ち込まない。
  • 空港で検疫犬を見たら協力する。
  • SNSやブログで「ASFの危険」を発信する。
  • 国産豚肉を食べて、生産者を支援する。

実際、世界中の政府機関がこの「情報発信」を重視しています。
ウイルスそのものを止めるのは難しくても、「知識」を広めることで感染の連鎖を断ち切ることはできるのです。

生ハムが消える未来を防ぐために

生ハムは、単なる食べ物ではありません。
民家の台所にも、レストランのカウンターにも、「人の時間と文化の積み重ね」が詰まっています。
その味を守るために、いま必要なのは一人ひとりの意識です。

「アフリカ豚熱?ニュースで聞いたことあるけど関係ないでしょ」
そう思って通り過ぎる人が少なくなれば少なくなるほど、豚たちの未来は守られます。

そして、生ハムが消えることのない世界を保てるのです。

まとめ:生ハムの危機は、“地球規模の警鐘”

アフリカ豚熱は、私たちの食卓の裏に潜む“静かなパンデミック”です。
人に感染しないからといって、安心してはいけません。
経済、文化、そして心の豊かさまで奪いかねない存在なのです。

日本でも、輸入肉製品からの感染リスクは常に隣り合わせ。
「生ハムだけで終わらない」——この言葉を覚えておいてください。

次にレストランで生ハムを口にするとき、
その一枚の背後にある農家の努力と命の循環を、少しだけ思い出してみてください。
それこそが、食を“大切にする”ということの、本当の意味なのです。

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