育休もらい逃げ問題。育休が取りにくくなる現実と向き合う

あなたは「育休もらい逃げ」という言葉を聞いたことがありますか?
最近、この言葉がSNSやニュース、そして職場の雑談の中でも取り上げられるようになっています。
「せっかく会社が育休を認めたのに、復帰せず退職してしまう」
「育休中に転職活動をして、別の職場に行ってしまう」
そんなケースが増えているといわれ、いま一部の企業では“育休取得に対する不信感”が広がっているのです。
「もらい逃げ」って本当に悪いことなのか?
まず、冷静に考えてみましょう。
育休は、「働く人が育児と仕事を両立するための権利」です。
国が定めた制度であり、「使っていい」と明確に認められた休暇。
しかし近年、「育休を取得した人が復帰しない」「復帰後すぐ退職する」ことが批判され、「もらい逃げ」という言葉で非難されるようになりました。
けれど――これ、本当に“逃げ”と呼ぶべきことでしょうか?
育休中に何が起きているのか
育休を取るというのは、決して「楽をする」ことではありません。
出産・育児は心身ともに過酷で、昼夜の区別もなく赤ちゃんに寄り添う日々が続きます。
仕事をしていた頃より忙しい、という声も少なくありません。
また、育休期間中に「自分のキャリア」や「家族の在り方」について深く考えるきっかけにもなります。
そして、場合によっては――
「今の職場では子育てと両立できない」
「会社の理解が足りない」
「もう少し柔軟に働ける環境に変えたい」
そう思うのは、自然なことではないでしょうか。
“信頼関係が壊れる”職場の現場では何が起きているか
一方で、企業側や上司の立場から見れば「裏切られた」と感じるケースもあります。
「育休中もサポートしてきたのに、戻ってこなかった」
「人員を確保するために他の社員が頑張っていたのに…」
こうした声も理解できます。実際、現場では「育休取得者の穴埋め」が簡単ではありません。
業務の再配分、引き継ぎ、臨時採用、そして残った社員の負担。
だからこそ、「もらい逃げ」という言葉が生まれたのです。
けれど――「信頼関係を壊したのは本当に休んだ側だけ」なのでしょうか?
育休を“取りづらくする空気”の正体
「もらい逃げ」が騒がれるようになってから、副作用として現れているのが「育休が取りにくくなる空気」です。
「どうせ戻ってこないんだろ」
「また人手不足かよ」
「育休を取る人が多いと職場が回らない」
こんな言葉が、徐々に職場の日常会話に混じり始めていると、多くのアンケートでも明らかになっています。
特に男性社員が育休を申し出た際、上司の反応が冷たくなったり、陰で「出世コースから外れる」と噂されるケースもある。
結果として――「取りたくても取れない」「気まずくて言い出せない」という空気が広がってしまっているのです。
「制度はあるのに使えない社会」になっていないか
日本では法律で「育児休業」は支えられています。
しかし実際には、制度の存在と現場の実情が乖離してしまっているのが現状です。
企業の中にも、「建前では推奨」「本音では歓迎しない」という二重構造が根強く残っています。
その結果、“制度としては整っているのに、心理的には使えない”というジレンマを多くの人が抱えています。
つまり――「もらい逃げ」という言葉が広まるほど、制度が形骸化するリスクが高まっているのです。
本当に悪いのは「制度の限界」ではないか
「もらい逃げ」を責める声の多くは、“個人”に矛先を向けています。
しかし、根本の問題は“制度のデザイン”にあるのではないでしょうか。
たとえば――
- 育休明けのキャリアサポートが不十分。
- 部署復帰時の調整が画一的で柔軟性がない。
- 上司に育児理解が乏しく、復職者が孤立する。
- 保育園問題で復帰時期を選べない。
こういった課題を放置したまま、「戻ってこないのは裏切りだ」と責めても、本質的な解決にはなりません。
そもそも、制度が現実に合っていないのです。
「育休もらい逃げ」と言われないために企業ができること
では、どうすれば企業と従業員の信頼関係を維持できるのでしょうか?
いくつかの企業では、すでに先進的な取り組みが始まっています。
- 育休中も「スキルアップ研修」などでつながりを保つ。
- 復職前面談の導入で、働き方や家庭事情を共有する。
- チーム全体で育休を“サポートの一環”として認識する。
- 退職しても「再雇用可能」にする“ブーメラン制度”を設ける。
こうした小さな工夫が、“出産=退職の分岐点”という意識を和らげ、信頼をつなぎとめる力になります。
社会全体で「理解を広げる」時代へ
本来、育休は「家族を大切にしながら仕事も続けたい」と願う人のための制度です。
その根底には「お互いを支え合う社会」をつくろうという考えがあるはず。
けれどいま、私たちはその理念を見失いつつあります。
誰かが制度を悪用したら即「もらい逃げ」呼ばわり。
誰かが長く休んだら「あの人は抜け道を使った」と陰口をたたく。
こんな社会では、誰も安心して子どもを産み、育てることができません。
結局、私たちが問われているのは「信頼をどう築くか」
“もらい逃げ問題”を議論する際に忘れてはいけないのは、「信頼は片側だけでは成り立たない」ということです。
会社が従業員を信頼し、従業員も会社を信頼する。
その循環が生まれて初めて“働きやすい職場”が実現します。
「どうせ裏切られるかも」と疑う前に、「どうすればお互い後悔しない形で支えられるか」を考える――
それこそが、育休制度を持続的に活かすための“社会的マナー”ではないでしょうか。
まとめ:「もらい逃げ」から「支え合い」へ
これから少子化が深刻化する中、育休制度の重要性はますます高まっていきます。
育休を取ることが“ずるい”とか“逃げ”だと言われる社会では、日本の未来が持ちません。
私たちがすべきなのは、非難や分断ではなく、「理解」と「柔軟な制度づくり」です。
そして何より、「育休を取ってくれてありがとう」と言える職場を増やすこと。
「もらい逃げ」ではなく「みんなで支え合う育休文化」へ。
――それが、いま私たち社会全体に求められている課題なのです。


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