「働いているのに、お金が出ない」――あなたも経験ありませんか?

夜9時。
オフィスの蛍光灯がまばらに残る中、あなたは一人、まだパソコンに向かっています。
「ここまで終わらせてから帰らないと、明日が大変だから…」
そう思いながらも、タイムカードはもう押してしまった。
時計を見ると、残業はすでに3時間を超えています。
でも、その時間には“賃金”がつかない。
そう、それがまさに「無給労働」です。
「無給労働」とは何か?労働法上の視点から
法律的に言えば、労働基準法第37条は明確です。
「使用者は、労働者に時間外労働をさせたときは、通常の労働時間の賃金より25%以上の割増賃金を支払わなければならない」
つまり、働いた分には必ず賃金が発生しなければなりません。
それなのに、なぜ無給で働く人が後を絶たないのでしょうか。
理由は単純です。
無給労働は「見えにくい」形で存在しているからです。
「無給労働」はこんなに身近にある
あなたの周りにも、次のような“無給タイム”が潜んでいませんか?
- 出勤前にSlackやLINEをチェックして、業務連絡を確認
- 昼休みにお客様の電話に出て対応
- 定時後に「ちょっとだけ」と頼まれた仕事を続ける
- 自宅で資料を見直した
- 研修や勉強会に「自主参加」の名目で出席
これらの時間、多くの人が“自発的”と勘違いして働いています。
でも、その行為が会社に利益をもたらしている以上、本来は“労働時間”なんです。
つまり――
「やらされている感がなくても、会社のために動いているなら、それは労働」です。
日本社会に根づく「無給は美徳」という誤解
日本では昔から、「頑張ること」「我慢すること」が美徳とされてきました。
“恩返し”や“奉仕の精神”といった文化的背景もあり、
「給料が出なくてもやるのが当たり前」という価値観が長く根づいています。
たとえば、次のような言葉を聞いたことありませんか?
- 「新人なんだから、覚えるまでタダ働きで当然」
- 「みんな頑張ってるんだから」
- 「仕事はお金のためだけじゃない」
確かに「成長」は大切です。
でも、それが“搾取の口実”になっている現実もあります。
無給労働は、単なる「仕事熱心」ではなく、“構造的な問題”なのです。
「無給労働」はどんな形で起きているのか
現代社会では、無給労働の形が多様化しています。
ここでは代表的な4つのケースを整理してみましょう。
サービス残業
最も典型的な形。
終業後も残業が暗黙の了解で行われ、申請されないケースです。
「上司がまだいるから帰れない」「残業申請すると評価が下がる」――
この“空気”が、無給労働の温床になります。
研修・勉強会
「自主参加」と言いながら、実質的に強制参加の企業内研修。
その準備や拘束時間が“学び”と美化されて賃金が発生しないこともあります。
SNS・チャットでの業務対応
リモートワークやオンライン文化が広まった今、
「仕事モード」と「プライベートモード」があいまいになっています。
勤務時間外の業務連絡への対応も、立派な“無給労働”です。
インターン・ボランティア労働
学生や非正規労働者を「勉強の一環」と称して働かせるケースも存在します。
特に文化・メディア業界では「夢」「経験」が口実になることが多いのが現実です。
無給労働を「仕方ない」で終わらせないために
「みんなやってる」「うちの会社では普通」
そんな言葉で片付けた瞬間、無給労働は永遠に続きます。
しかし、法的には次の点で完全にアウトです:
- 会社が指示・黙認しているなら労働時間
- 業務上必要な行動なら「自発的」とはいえない
- タイムカードの打刻後であっても、指示に基づく作業ならそれも勤務時間
労働基準監督署も、これらを元に指導・是正を行います。
記録や証拠があれば、未払い残業の請求も可能です。
「権利を主張するのはワガママ」ではない
会社に対して「働いた分を請求する」ことは、遠慮すべきことではありません。
むしろ、あなた自身を守るための最低限の行動です。
実際に無給労働が認められた場合、
過去2年(条件により3年)まで遡って未払い賃金を請求できます。
多くの事例で、100万円以上の支払い命令が下されたケースもあります。
それでも、「波風を立てたくない」「居づらくなるのが怖い」と思いますよね。
だからこそ重要なのは、“今の自分を客観的に見る習慣”なんです。
あなたの「1日24時間」のうち、いくつの時間が“無給”?
考えてみてください。
スマホを見て上司の指示に従い、資料を直している時間。
会社から帰っても頭の中が仕事でいっぱいな時間。
これらの時間は、
“形を変えた労働”でありながら、誰も報酬を払ってはいません。
社会が「効率」「働き方改革」を叫ぶ一方で、
個人の自由時間は、少しずつ見えない形で奪われているのです。
無給労働を減らすために、今すぐできる3つの行動
- 労働時間を記録する
開始・終了時刻、業務内容、通信履歴。できるだけ記録を残しましょう。
記録があれば、事実を証明できます。 - 「勤務外対応」の線を引く
チームで「連絡していい時間帯」を共有することが効果的です。
“つながらない時間”を意識的につくることで、私生活が守られます。 - 社内・外部に相談する
職場に労働組合や相談窓口があればまず共有を。
外部には労基署、弁護士会、NPOなども支援してくれます。
私たちの社会を「タダでは働かない世界」へ
“正義感”や“責任感”を持って働く人ほど、
無意識に無給労働を引き受けてしまう傾向があります。
でも、本来の責任感とは――
「自分の時間を大切にすること」でもあると思うんです。
働いた分だけ正当に報われる。
当たり前だけど、これこそ社会の根幹です。
もしこの記事を読んで、「自分もそうかもしれない」と感じたなら、
小さくても行動を起こしてみてください。
それが、未来の“誰か”を救うことにもつながります。
終わりに:あなたの時間は、会社の持ち物ではない
「無給労働」をなくすための最初の一歩は、
あなたが“自分の時間の価値”を認めることから始まります。
働くとは、自分の人生の時間を社会に差し出すこと。
そして、その時間には“値段”がある。
だから、
働いたら、正当に報酬を受け取る。
それは、労働者の義務ではなく“当然の権利”なのです。
どうか、その権利を当たり前に、声に出していきましょう。
無給労働が“過去の言葉”になる未来のために。


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